綿貫ちひろは親が転勤族であるために、せっかくできた友達とも暫くすると離れ離れになってしまい、そのうち疎遠になるという寂しい思いを繰り返してきた。
しかし今度の場所は長く留まるというので、新しく転入する高校では「仲のいい友達が欲しい!」と切望。
けれど、既に固まっている友達グループにはなかなか声をかけられず・・・。
会話を交わすのは、唯一席が隣合っている湯神くんくらいなもの。
けれども湯神くんは仲良くする気ゼロ。
彼は友達を作る・・・というより、人と馴れ合う事に何ら必要性を感じない人間だった。
他者に依存しない自分本位な生き方に、自負心すら持っている。友達を作れないのではなく、作らない。
湯神くんの場合、それは意地でも言い訳でもない。
休み時間だろうと昼食だろうと、チームプレイのはずの野球でさえも、彼は全てを一人で満喫するのである。
むしろ他人が干渉や口出しをすると、よけいなお世話とばかりに不機嫌になったりする。
何も根本的に人嫌いというわけではなく、ただ彼は自分のやりたいことをやっているだけなのだ。
独特な価値観と、妙な自分ルール=こだわりを持ち、理屈っぽくて頑固だが、裏を返せばそれは信念を曲げないという事でもある。
たとえ上級生が相手だろうと、不条理な要求には譲歩しない。良くも悪くもブレない湯神くん。
周囲の人々にとっては、関わると厄介で面倒くさい存在であっても、読者として見る分には憎めない奴である。
名前は「ゆがみ」だけど根は真っ直ぐなのだ。
上級生とトラブルになったちひろちゃんを助けたり、風邪で休んだちひろちゃんの家にプリントを届けたりと、少女漫画のようなシチュエーションはあるものの、あくまでこの作品は「お一人様コメディー」。典型的な少女漫画のような展開にはならないし、ラブコメっぽくなったとしても大概、登場人物は誰も得していない。
悲喜劇というか空騒ぎというか、徒労のような感じで終息する。派手さは無いがじんわり面白いというところが、ストーリー構成の上手さを感じさせる。